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老年栄養という健康問題に目を向けよう
長寿社会である本邦において、高齢者に特有の栄養問題が注目を集めつつある。老年栄養(Geriatric Nutrition)と呼ばれる比較的新しい老年医学/老年学の範疇のトピックである。従来、栄養といえば食事についてのアレンジが主流だ。糖尿病、慢性腎臓病、脂質異常症、心不全や高血圧症などの慢性疾患においては、食事療法が疾患の転帰を少しでも好転させるために有効である。しかし、食事療法の多くは特定の栄養素の制限や栄養素全体のバランスに気を配ることばかりで、栄養状態の改善を目的としたものではないようである。
老年栄養では従来の食事療法に加え、栄養状態を問題視する。例えば、フレイルやサルコペニア、低栄養、悪液質である。栄養状態の維持や改善自体をゴールとして介入する。また、老年栄養は、栄養状態を悪化させる可能性がある疾病や状態もカバーする。食べる問題(摂食嚥下障害)や人工栄養導入についての意思決定支援、食事介助や拒食の問題も扱う。高齢者が直面する可能性のある食に関するすべての課題と対峙する。
また、疾病の治療だけでなく、予防的アプローチの視点も老年栄養には含まれる。おいしく楽しめる栄養文化を地域に浸透させることが大切だ。老年栄養という考え方は健康寿命の延伸に大いに貢献できるものと考えられる。
前田圭介 Maeda Keisuke
国立長寿医療研究センター老年内科 医長 / 愛知医科大学大学院緩和・支持医療学 客員教授