坂下美渉:地域にある資源を最大限に活かして、ないものは創る!

  • 内容:Contents
  • プレゼンター:Presenter
  • テキスト:Transcript

地域にある資源を最大限に活かして、ないものは創る!

「秋田県には何にもないから…」。3年前まで私は、罪を犯した高齢者や障がい者を支援するセンターに勤務していました。生活困窮等を理由に罪を繰り返す人たちの多さに愕然とする日々。そして、罪を繰り返す中で親族と疎遠になり、帰る場所を失った人たちの深い悲しみを知ったのです。 社会資源がない。だから支援が上手く行かない。それは仕方がないこと。私は本当に無力でした。でも、本当に秋田県には何もないのでしょうか?見ようとして来なかっただけで本当は沢山の資源(人、思い、繋がり)があることに私は気付きました。人の想いと想いを一つずつ結び付け、小さい歩みではあるけれど1歩ずつ。 そんな毎日の中で、秋田県には無かったホームレス支援団体を立ち上げることが出来ました。現在は全国の団体と連携・情報共有しながら秋田県に必要な取り組みを先駆的に発信しています。挫折の多かった私の歩みを皆さんにお伝えすることで、誰かの1歩に繋がることを祈っています。

坂下美渉

NPO法人あきた結いネット理事長

地域にある資源を最大限に活かして、ないものは創る!

では、みなさん、こんにちは。

よろしくお願いします。

 

私より前に4人ほどすごい熱い思いでですね、プレゼンターの方がほんとに心いっぱい、頭いっぱい…

ほんと皆さん今いっぱいいっぱいなってるんじゃないかなって思うんですが、

 

ホームレスという、難しい、秋田に身近に感じられないようなことを皆さんにお話しするというところで、ちょっとですね皆さんリラックスして、腕とか肩とかこう伸ばしたりしてもらってもいいですか?そうするとスーッと私の話をこう、頭、心に入ってくるんじゃないかなと思います。

 

はい、ありがとうございます。今日のテーマとしてですね、「地域にある資源を最大限に活かして、ないものは創る!」ということでお話しさせていただきます。これは私がNPO法人を立ち上げた平成25年の10月の時に、団体のコンセプトとして掲げて、そして自分自身の目標として掲げたものです。

 

人間というのはやはり、自分でできないんじゃないかなって思うことって絶対実現できないんです。自分が「やる」といったことしか、実現できないんです。なので私は、やはり「地域で困っている方、いろんな制度があるんだけれどもその隙間に落ちてしまう方を、必ず救っていきたい」「『秋田県にはない、ほかの県にはあるけど秋田県にはない』そんな理由であきらめたくない」と思って、私はNPO法人を立ち上げたときこういったコンセプトで活動を始めました。

 

私が結果的にホームレス支援をすることになったのは、秋田県で困っている人をなくそうというそのひとつの取り組みがあるんですけれども、その中で地域で寄せられるご相談の中で一番多かったのは、住む場所を失った方からのご相談でした。それはやはり医療職の方や福祉職の方が日々感じているところで、そういったところを支援する団体が秋田県にはなかったんですね。なので、今現状はホームレス支援を秋田県内で唯一行っているNPO法人という立ち位置で活動させていただいております。

 

そうしますとですね、私必ず聞かれるのが「なぜ坂下さんこういう活動しているんですか?」って言われるんですね。なので、必ず自己紹介を含めて自分のことをお話しさせていただいております。

 

私は5人兄弟の末っ子として育ったんですが、母が私が小さいころに離婚しまして、母子家庭の5人兄弟の末っ子という立ち位置で育ちました。今は子どもの貧困ということで、大きく取り沙汰されて6人に1人が貧困だと、いう話がありますけれども、私も自分自身がその貧困を経験して、差別を受けて、生きてきた。そして今大人になったときにですね、高校生の段階で自分自身が大学に行くという選択肢がなかったのでそのまま就職したんですけれども、やっぱり福祉の道…そこを諦めたくなかったので、25歳になったときに東北福祉大学の通信教育課程に入りました。そしてここに書かれているような社会福祉士、精神保健福祉士を取得して、さまざまな生活に困っている方々の支援をしているという流れになります。

 

ただ私自身ですね、この資格を取ったから急に何かができたわけではなかったんです。私はあの今NPOを立ち上げる前に罪を犯した高齢者や障がい者の方の支援を行っていましたが、やはり資格だけでは人は救えないんですね。相談員というのは、その方の相談を受けて、そしてその方が望む生活をするための社会資源、さまざまな制度に繋げる。そういった役割がありますが、なかったんです。住む場所がないという方の相談を受けても。繋ぐ先を見つけられなかったんですね。その時私は資格があっても、何の意味もない。私はとっても無力だなと思いました。ただそこで諦めるんではなくて、やっぱり自分でできることをひとつずつやっていこう、そしてNPO法人あきた結いネットが立ち上がりました。

 

 

日々ですね、いろんなところからご相談いただいているんです。

 

家賃が払えなくて競売にかけられてとか、入院費用が払えなくてすぐ退院しなければいけない、施設からすぐ出なければいけない、さまざまな相談があるんですが、そういったさまざまな相談を受けていながらも、こういった数字が出てきたんですね。

 

「0人」

 

じゃあ何の数字かといいますと、これは厚労省のほうが出した平成28年1月現在の秋田県のホームレス数です。

 

——じゃあ私が日々ね、あの相談を受けている人たちはどこに、誰がみつけてくれるんだろう。0人なんですね。

これは目視で、川だとか公園、駅そういったところに住んでいる方が何人いるかということを調査したものになります。ただ私たち、あきた結いネットが3年間で支援した住居喪失者の方の人数は110人になります。

 

……これだけの数の人たちが、本当は困っているのに、誰にも見つけられず、国にも把握されず、過ごしていると。

でもそこで、じゃあもう制度がねそうなっているんだったらしょうがないとか、国が把握してくれないんだったらしょうがない、補助金が出ないんだったらしょうがない、そういうことではないと思うんですよね。なので私たちはできるところから一歩ずつ取り組んでいます。

 

実際の住居支援の写真になりますけれども、こちらですね。(スライド右下)こちらは相談支援付き住宅という名称で、1日2,000円でお部屋をお貸ししています。その方の生活状況によっては1日2,000円のご負担が難しい方もいらっしゃいますので、その場合にはご相談いただいて、ただやはり今住む場所がない方に関してはお部屋に空きがある場合にはすぐ受け入れを行っています。現在ですね部屋数も増えまして、12人の方を受け入れるだけのお部屋を秋田市内に準備しております。

 

一旦ですねこういった相談付き支援住宅、一般的にはシェルターとも言われますけれども、そちらにそういった方たちを受け入れした後に、気づくことがあったんですね。そういった方たちの中にはやはり介護保険が必要な方もいらっしゃいました。医療が必要な方もいらっしゃいました。ほかに、障がいを持っている方が多数いらっしゃったんです。

 

私たちは、グループホームへの入所ということでですね、秋田市内のさまざまなグループホームにあたってみたりしましたけれども、どこも満員なんですね。でもその方たちにはやはり障害福祉のサービスが必要だ、となったときにそこで諦めてしまうんではなくて、ここの写真の(スライド左中央)、こちらですね。「グループホームお結び」と書いていますが、秋田市内にまず1か所こちらを立ち上げて、身寄りのない障がいのある方たちを優先的に受け入れを行っています。

すぐに定員4名が埋まってしまいまして、その次にもう1店舗ですね、こちらは(スライド右上)「グループホーム”しおむすび”」ですね。しょっぱいほうの塩じゃないですよ。志(こころざし)を結ぶ、で「志を結び」という名前を付けて秋田市内で2つのグループホームを運営しています。

 

そしてですね、さきほどの相談支援付き住宅——シェルターですね——そちらで受け入れした「後」に、そのお部屋というのはもうずーっと住むお部屋ではないので、その方たちが自ら望む場所に住んでいただくために、やはり身元保証人の問題が出てきました。

 

アパートを借りるとき、例えばその方が介護保険が必要で施設へ入所するといったときに、やはり保証人が必要になりますね。やはりホームレスに至る経緯の中で、親族との関係性疎遠になります。——誰も、誰もそんな、保証人なんて——。

いくら身内であっても保証人って今抵抗がありますよね。なので、やはりこういった私たちが支援する方は保証人の問題がすごく苦労します。なので私たちは、この「トータルライフ支援事業 結いの手」というもので、行政のオブザーバー的な立ち位置で参加していただきながら、専門職の方だとか企業さんですね、不動産会社や葬儀会社、保険外サービスを行ってくださる事業所さん等と連携をしながら、その方の身元保証をネットワークで支える仕組みを行っております。

現在ですね、51名の方、この事業が始めて2年なんですが、51名の方の身元保証を行っております。

 

 

この中でですね、どういった年齢層の方がいるのかというと、20代の方もいらっしゃいます。20代から50代くらいの方はアパートの身元保証が多いんですが、それ以上の60代70代の方に関しては、施設入所の保証人、もしくは入院の時の保証を行っています。

 

そしてですね、私が最近とても心に響いた言葉があります。「ニーバーの祈り」と書いていますが、

 

——神よ

変えることのできるものについて、

それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

 

変えることのできないものについては、

それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。

 

そして、

変えることのできるものと、

変えることのできないものとを、

識別する知恵を与えたまえ。

 

 

 

今日参加のみなさんはきっと何か、やってみたいだとか気づいていることがあって、熱い志を持って参加してくださっていると思います。でも人間って、やっぱり弱いので、できない、やらない理由を一生懸命考えるんですよね。今目の前にいる困っている人を自分は見捨てたくない何とかしたいと思っても、やっぱりできない理由を先に考えてしまうんですよね。

 

でもそういった、ちょっと悩んだときに、それって自分自身が努力すればなんとかなることなのか、例えば、制度であったり会社であったり、さまざまな自分自身では急には変えれないものがそうさせているのか、そこをちゃんとわけて、自分が変えていけるところから一歩ずつ一歩ずつ取り組んでいく。そういう気持ちがあれば、きっと何かが変わると思うんです。

 

私自身もNPO立ち上げる前は、もうほんとあのー罪を犯した方たちの受け入れ先が見つからなくて、もうあのー日本が悪い、社会が悪い、もう法律が悪いし、同僚も悪いし、みんな上司も悪かった。自分以外みんな悪かったんですね。でもそういう気持ちで社会って変えられない。自分も変わらなければやっぱり変えられない。だから自分が変えれるところからひとつずつ変えていく。そういう気持ちがすごく大事なんじゃないかなと思います。

 

 

そして最後に、

 

「他人事から我が事へ」

 

今日皆さん、「ホームレス、秋田県にいるんだ」「住む場所を失ってしまう方がそんなに秋田県にいるんだ」そう気づいてくださったと思います。そこにもし少しでも興味を持っていただけるんであれば、もっとですねそういった方たちが県外の事ではなくて、秋田でも実際にあるんだよということを知っていただいて、自分の事としてですね。もしかして今後そういう可能性がある方がいたら、いち早く私たちに教えていただいてもいいですし、何か連携する団体の中で共有するなり、そういった形でですね、他人事ではなく自分たちの事として、そういった方たちを支えていただけたらなと思っております。

 

ご清聴ありがとうございました。

(テキスト化:hillさん)

関連プレゼンテーション

  1. 五島朋幸:食べること 生きること~最期まで食べられる街づくり~

    五島朋幸:食べること 生きること~最期まで食べられる街づくり~

  2. 菅原睦実:インクルーシブって? オータムライスフィールドってなに?

    菅原睦実:インクルーシブって? オータムライスフィールドってなに?

  3. 永井弥生:“変える”ということ“変わる”ということ

    永井弥生:“変える”ということ“変わる”ということ

  4. 白石弘美:宮城発(初) 富山型デイサービスの実践から

    白石弘美:宮城発(初) 富山型デイサービスの実践から

  5. 佐々木 淳:「医師の個人事業」から「地域医療インフラ」としての在宅医療へ

    佐々木淳:「医師の個人事業」から「地域医療インフラ」としての在宅医療へ

  6. 坂井 雄貴

    坂井 雄貴:医療は “生きづらさ” を変えられる ~診療所から伝える、マイノリティが暮らしやすいまちづくり~