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家庭でもなく、職場でもなく、母親はなぜ地域の居場所に引き寄せられるのか?
「居場所」という言葉は、メディアなど様々なところで目にするようになりました。しかし「居場所」ってなんでしょう? 日頃、運営している私たちも端的に答えるのが難しい。
最初に居場所が生まれたのは、学校に行けない子ども達の拠り所としての場でした。その後、居場所は大人の就労や自立支援としての役割に注目されてきました。しかし、母親、子ども、パートナーなど一人一人が抱える問題はいま多種多様に広がりそして深い。それゆえに居場所はさらに曖昧になりながら、個人や社会が抱える全ての問題を包括する中間的な機能と役割を担ってきている。
市民が主体となって自ら立ち上がって生まれる居場所。そこは地域共生社会の小さな出発点のように感じる。近年の子育て世帯の状況を踏まえながら、一人一人が参画する地域共生社会の未来へ目を向けていきましょう。
櫻井 弥生 Yayoi SAKURAI
NPO法人Mam’s Style理事長
家庭でもなく、職場でもなく、母親はなぜ地域の居場所に引き寄せられるのか?
発表も終わりの方に近づいてきて、とてもあったかい気持ちで今日一日聞かせていただきました。セッションBの方の佐々木先生の話の続きのような感じになってきました。こちらご覧ください。
(スライドを参照しながら)お母さんと赤ちゃんが映っております。私は前橋市敷島町で、家庭でもない、職場でもない、親子の居場所、居場所を開いております。
簡単に居場所っていうふうに言ってしまったんですが、皆さんにちょっとお伺いしてみたいです。「居場所」を聞いたことがある、知ってるという方どのくらいいらっしゃるでしょうか?(と挙手を求める)
では「居場所」へ行ったことがある、利用したことがある方(と挙手を求める)。
全然じゃないですけど、ほとんどいらっしゃいません。そういったところで、私たちは日常的に「居場所」って言葉を使ってしまうんですけれども、「居場所」について少し詳しくお話ししたいと思っております。そして一人でも多くの方に、今後つながっていくことができたら…そんなふうに思っております。よろしくお願いします。
さて、皆さんに質問です。皆さん、幸せですか?
すぐに「私は幸せです」と答えられる方、じつはそんなにいらっしゃらないんじゃないかなと思います。なぜ、すぐに自分が幸せだって答えられなかったんでしょうか。
これがもし子育て中のお母さんだったら、こんな理由があるのかもしれないな、と思います。
(スライドを参照しながら)これは働いている女性に調査したアンケートなんですけれども、「あなたはなぜ、仕事をするのですか?」という質問に対して、1番多かったのは「社会とつながりを持ちたいから」という女性でした。これが56.8%。2番目に多かったのが、「生活の糧としてお金を得ていくこと」。こんなように社会とつながりを持ちたい、これが仕事とのつながりになっております。
しかし女性というのは、妊娠や出産、また子育てに専念するときが来ます。そうするとやはり、第一子妊娠のときに、仕事を続けるか、それとも育児に専念するか。そのように選ぶときが来る。
そしていまだに多いのが、二人に一人は退職してしまうという女性たちです。しかし、退職したあと、新しいつながりとして育児のつながりが生まれてきます。
たとえば子どもを連れていると、スーパーや公園でちょっと声を掛けてもらえたり。
そして新しく育児サークルに入ってみると、お友達ができたりします。職場では得られなかったお友達です。
こんなふうに「子どもが生まれると、新しいつながりができるんだ」、こんなふうに皆さんイメージしていらっしゃるかと思うんですけれども、これって当たり前にできるんですかね、ということ。
(スライドを参照しながら)こちらをご覧ください。地域の中で子育てのつながりがどのぐらいあるのかという調査です。
いまから20年前、「子ども同士をちょっと遊ばせながら、お母さん同士立ち話をする」。こんなお母さん、20年前は81%いました。それがですね、2014年、最近になってくると47.5%に減ります。
次にですね、2022年。いまですよね。いまやればこの数値ますます減ってくると思うんですよ。簡単に子育てのつながりができるんじゃないのかなと思っていたけれども、じつはそうではなかった。
仕事も退職して、育児のつながりも失われていっているというのが、多くの女性に訪れてきます。
やっぱり子育てのつながり、作りたいですよね? でもやっぱり難しかった。
子育て中のお母さんが心配するのが、子育てしてるお母さんたちと、おしゃべりがしたいなあと思った時に、しゃべる相手のいないこと。そして子ども同士を遊ばせたいなあと思った時に、遊ばせられる人がいないということなんですね。
そうしたお友達って、一体どこで作ったらいいんでしょうか。
こうした、妊娠出産をしたあとのお母さんたちがちょっと焦りを感じながら、どこかでつながりを求めていらっしゃる。こうした時に出会っていく場所が「居場所」なんですね。
そうしたところで今日皆さんにお聞きしましたけれども、「居場所」…あんまり聞いたことないなということと、利用したことがないな。まだまだ「居場所」って知られていないんだなと思います。
さて、「居場所」に来るお母さんたちは、どんなお母さんたちでしょうか。(スライドを参照しながら)いま、こちらに写真出てますけどね。
いままでのお話しの流れから、育児のつながりを作りたい。子ども同士で遊ばせたい。そんなようなお母さんたちが集まってくるのかなぁというイメージが、皆さんの中で持たれたかと思います。ですが、それだけではないんですね、お母さんたちって。
そのほかに「居場所」にやってくる方。日中の平日に小学生のお子さんや中学生のお子さんを連れてきている、利用される。
本当はパートに出たい、正社員になりたいけれども、子どもが家にいることによって、不登校だから勤めに出られない。
また、妊娠したくない、出産したくないけれども、夫からのDVによって妊娠出産せざるを得ないお母さん。
夫と離婚したいけれども、収入がない。また、自分でやっていける自信がない。
そうしたお母さんたちも、じつはこうした「居場所」にはやってきます。本当に様々な人たちが、こうした「居場所」にやってくるんですね。
なんでこんなにいろんな課題と出会っていくんだろう。そんなふうにちょっと不思議に思っていました。
そうすると「居場所」っていうのは一体どんな場所なんだろうか。歴史を振り返ってみると、「居場所」という言葉自体は、1980年代以降に増えてきた不登校のお子さんたち、そして親御さんたち。そうしたあいだで交わされて生まれていった「居場所」という言葉なんですね。
それが、学校に行かなくてはいけないというような、社会的な価値観。
そして家自体にも居づらくなってしまった、子どもと保護者の方。
そうした方たちが見出していったのが、地域の中でのフリースクールの誕生だったんですね。これが「居場所」の原点と言われています。
こうして元々はフリースクール、子どもの学びの学習の場所、という「居場所」から、次に生まれてきたのがだんだんと生活共同体が失われていく中で、昔ながらの暮らしを知っている大人たちが、子どもたちへ遊びを通して、地域のつながりを作っていきましょう。そんなような遊びの要素を取り入れた「居場所」が生まれていきました。
いままでは子どもに対しての「居場所」、それがのちにですね、1998年以降、経済的格差が広がっていく中で、大人に対する社会福祉の要素が加わってきました。
つまり、地域の中で孤独な大人たち。そうした人たちが、「居場所」でもってつながりを持っていく。そしてドロップアウトしてしまった人たちが、またもう一度ロードへと戻っていく。そうした生活のつながりの場所、それが「居場所」の中で担われてきました。
こうして見てみると、居場所っていうのは「あ、いろんな人が集まってくるんだな」「いろんな課題が集まってくるんだな」
そうたものが本当に、1箇所にですね、ぎゅーっと濃縮されていくような、社会の縮図のような不思議な場所なんですね。だからこういうところでいろんなものと出会っていくんだな、と「居場所」を運営していると思います。
そうした中でですね、たびたび話題にも出てきましたけれども、不登校……お子さんが不登校であることによって、お母さんがパートに出られない、勤めに出られないという関係性がやっぱりあるんですね。
そうした中で特にシングルのご家庭は収入に直結していますので、早くなんとかしていきたいと、私たち自身も思っていました。
潜在的不登校の数は43万人と非常に多いです。そうした中で昨年の夏取り組んだのが、「子ども商店株式会社」という活動なんですけれども、これは子どもの企業活動になっています。
前橋市のフリースクールと、またそこのフリースクールに通っている子どもたち半数と、また半分は普通に学校に通っている子どもたち同士が一つのチームになりながら、食事や遊びを繰り返して成長していきます。
そこでですね、私たちの狙いとしたのは、こうした企業体験・活動を繰り返していきながら、モチベーションとかリーダーシップとか積極性なんかが、子どもたちの中で非認知能力として高まっていって、自分に自信をもう一度呼び戻していく。こういったことを狙いとしていました。
しかしですね、ちょっとやってみると違ったんですね。事前事後のアンケートと、子どもたちの日頃の様子。こういったものを見ていくと、当初はですね、不登校の子どもたちって自己肯定感が低いんじゃいかな? とか、やっぱり自分に自信が持てないんじゃないかな? そんなふうにイメージして作っていったんですけれども、調査の結果によって、違うということも分かったんですね。
(スライドを参照しながら)こちら上の段が子ども、下の段が保護者のアンケートとなっております。で、オレンジの丸が不登校の子、青の丸が普段学校に行ってる子ども。子どもの上の段だけ見てみますと、たとえばオレンジの丸の子が、スコアが下から1、2、3、4、5と振ってありますけど、下の方の低い評価に固まってくるというような傾向はないんですね。これが分かります。
で、また不登校のお子さんを持っている保護者の方。保護者の方も、自分の子どもが不登校だからといって、低い評価を自分の子どもに与えてはいないですね。ここの1、2のところにオレンジの丸が固まってくるような傾向はありませんでした。当初の予定とはちょっと違ったんですね。これは一体なぜだったのか?
それは今回、フリースクールの不登校の子どもたちが半数入ってます。子どもたち、普段は学校には言ってないけど、フリースクールには行ってるんです。そのために、学校には同じくらいの価値を、フリースクールで得ていって、非認知能力が普段から高かったり、自信を持ってたり、自分から前に入って販売できたりするんですね。
そうしたことを見てみると、フリースクールって非常に高い価値を子どもたちに与えられているんだということを、ここで感じとりました。
また、こうした学外の場所、地域の場は、人にすごく価値あるもの、意義あるものを提供して、力を与えることができるんだ、こんなことを、この夏考え感じさせられました。
いまはですね、クラウドソーシングで一人で仕事もできます。できるんですけど、やっぱり自分ひとりで課題って解決できないんですね。
昨年の夏の取り組みで、子ども商店で感じたのは、やっぱり人と人が関係性を持っている。これがとても大切です。そして家とはまた違う、外の、地域の場所の中で安心や信頼が育まれていくことによって、やはり自分自身の持っている課題も乗り越えていく力になっていく。これがとても大切。
しかもこれ、短期ではなくて長期的に何回も何回も継続的に繰り返されていくと。これがポイントなんだなと思いました。
私たちは困窮家庭の食品支援もしていますけれども、中には私たちの支援からはずれて、いなくなっていく方もいます。
ここでもう一つ見つかったのが、本当の孤独・孤立ですね。
私たちはこういった場を提供していますけれども、自ら離れていってしまう人、また、自分自身が孤独や孤立ということに気がついていない人もいるんですね。この人たちはほとんど見えません。立ち表れてこないですね。
これが本当に難しくて、私たちが見えないものをどうやって見つけたら良いのか? 皆さんがいらっしゃるそれぞれの場所で、やっぱり五感を働かせて、見えないものを見ていく必要があるんですね。それによって一つ一つの小さな幸せがつながって、大きな幸せになっていく。そんなふうに考えています。
今日はですね、私どもの法人のリーフレットを下に用意しました。で、子ども商店の小さな本も用意しましたので、ちょっと見ていただくと、「あ、こんな活動してんだな」と分かるので、ぜひご覧ください。ありがとうございました。
テキスト化 「ろくや」さん