五島朋幸:食べること 生きること~最期まで食べられる街づくり~

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食べること 生きること~最期まで食べられる街づくり~

五島朋幸

ふれあい歯科ごとう

食べること 生きること~最期まで食べられる街づくり~

僕が初めて訪問診療を始めたのは1997年です。

その直前に、僕は「在宅医療」というのを初めて見学したことがありました。

 

(患者さんの)誰一人として入れ歯をいれていない。

 

その現状にすごく腹が立って「あの入れ歯をいれていくんだ!」という思いで、初めて僕らが訪問診療を始めたのです。

 

1997年11月に始めました。

 

同年には「口腔ケアによって誤嚥性肺炎を予防できるかもしれない」という論文が出てきました。

 

じゃあ僕達がやることは口腔ケアかもしれない。

では「口腔ケアをしっかりやっていくんだ」という思いで訪問診療を続けていたら、その口腔ケア自体が摂食嚥下障害の間接訓練になるということもわかってきました。

 

僕らは大学で「摂食嚥下障害」などという言葉は聞いたことがありませんでしたが、しかし「これは歯医者のやることだ」と思って、摂食嚥下障害について自分たちも学び、実践するようになりました。

 

そして10年間やってきたのは口から食べるための機能訓練です。

 

機能訓練をやることによって確かに成果は出てきた。

誰からも評価は得てきたけれども、それ以上のものではなかったんです。

 

そうなんです。

歯科だけでできる限界があったんですね。

ですから、口から食べるために多職種連携をしましょう、

みんなでやっていきましょう、ということを考えるようになりました。

 

そして今、考えているのは何かというと、地域での食支援です。

 

 

2009年7月、新宿食支援研究会というのを立ち上げます。

「新食研」。…焼肉のたれは作りません。

 

さあ、新食研のモットーはこれです。

 

最期まで

口から食べられる街

新宿

 

これを最初のモットーにしました。

そしてその中で具体的な活動として「3つの目標」を設定しました。

 

ひとつは「1.介護職の食に対する意識の向上」プロジェクトです。

 

ヘルパーさん、ケアマネさんにもっと食について多くのことを知ってもらいたい。機能であるとか、姿勢であるとか、いろいろなことを知ってもらいたいということでした。

 

次に「2.食支援職種のネットワークづくり」です。

地域の中でしっかりとネットワークを作ろう。これを僕らは目標のひとつにしました。

 

さらにもうひとつ。「3.食支援の地域での実践」。

やはり「食支援をちゃんと実践(実現)し、それで結果を出している」というチームを作ろうということにしました。

 

今現在、それぞれのプロフェクトに対していくつかのワーキンググループができています。

たとえば、ホームヘルパーさん、ケアマネさんの「意識の向上」プロジェクトとしては「ホームヘルパー研修会」があり、もうひとつ「SSK-O(エスエスコ)」を作りました。

何かというと、ヘルパーさんも、ケアマネさんも「この人だったら、こんな食形態がいいのではないかな⁈」と見て分かる判定表を作りました。

これ、なかなか好評です。

 

ネットワークとしては地域の勉強会を始めました。

だいたい今、70~80名が集い、毎月開催しています。

終了後に懇親会もやりながら人の顔も見えていく、いろんな人がつながっていく。

さらには「連携シート」を現場で作ろうということで、今、多職種が集まって「何かいい連携シートができないだろうか」と検討しており、今、カタチになりつつあり、来年には実用化できる予定です。

 

もうひとつ。我々の仲間には包括の相談員、医療ソーシャルワーカー、ケアマネの中に、大学で社会学をしっかり学んできたメンバーがいたので、彼らに「この食支援が社会に行き届いているか、フィードバックがあるか」をしっかり考えてもらう調査集団を作りました。

 

実践としては何といっても「ハッピーリーブス」です。

歯科衛生士、管理栄養士、理学療法士にチームになってもらいました。ここが今、新宿の食支援の核になっています。

 

そのほかにも、我々には鍼灸マッサージ師さんのメンバーもいて、東洋医学的な風を送ってもらいながら、これも食支援につなげていこうという活動もしています。

 

もうひとつ、「ファンタジスタ」。何だと思いますか?

理学療法士と福祉用具専門相談員のチームです。

この2つの職種がそろうと何ができるかというと、一発で局面を打開できる。彼らに車椅子ひとつでこの人が食べられるようになる、などというのをガンガン見せてもらおうと思って、「ファンタジスタ」を作りました。

 

 

さあ、

食支援というのは何かというと、よくいわれていることは、

ひとつは「1.健康的な栄養状態を維持すること(ちゃんと栄養を保ちましょう)」、

そして「2.経口摂取を維持すること(口から食べていきましょう)」、さらに「3. 食事を楽しんでいただくこと」も大切ですね。

 

そこで、食支援というのは具体的にどんなことか、ざっと挙げてみました。

  • 全身の管理
  • 栄養管理
  • 口腔環境整備(義歯製作、調整)
  • 口腔ケア
  • 摂食、嚥下リハビリ
  • 食事形態の調整
  • 食事作り
  • 食事姿勢の調整
  • 食事介助
  • 食事環境調整

まだまだこれでは足りないんですけれど、10項目を挙げ、ずらっと並べてみました。

 

では、これらを誰がやるの?ということで、表を作りました。

 

医師、看護師、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士、理学療法士・作業療法士、ケアマネ、ヘルパー、福祉用具、配食サービスの人がそれぞれ何を担うか、という表です。

見て分かる通り、医療職だけではダメなんですね。やはり介護職がしっかり入る必要があるのが食支援なのです。

 

実は、多職種でやっていく「チーム医療」や「地域一体型NST」、「多職種連携」と言われていて、まさにキーワードは連携になってきました。

 

新食研のスタッフは現在33名います。

どんな職種がいるかというと、

  • 医師
  • 歯科医師
  • 看護師
  • 薬剤師
  • 歯科衛生士
  • 管理栄養士
  • 理学療法士
  • 医療ソーシャルワーカー
  • ケアマネジャー
  • ホームヘルパー
  • 地域包括相談員
  • 福祉用具専門相談員
  • 施設介護職員
  • 鍼灸・マッサージ師

です。

彼らがそれぞれ独立して頑張っているんですが、やはり我々が求めているのは何かというと、新食研の中で”顔の見える関係”などということはまったく求めていません。

実は”顔”なんて見えなくてもよかったんです。

 

そうではなくて、いちばん連携で重要だったことは何かというと、

それはもう「腕と腹」です。

 

それぞれのスキルとマインドが分かってはじめて連携ができるのではないですか。

そうでしょう⁈

「あなたは歯科医師だからこれができるでしょう」というのは勝手な妄想であって、それができるかどうかはその人にかかっています。

 

できる人としか連携はしない。

 

だからプライベートなチームで僕らは活動しているんです。

 

 

さて、実は今、東京都新宿区民が「322,802人」います。

高齢化率19.7%ということは高齢者は今、「63,495人」います。

 

実はある論文に、65歳以上の高齢者の摂食嚥下障害者の割合が出ていました。

 

病院 16.2%

施設 19.0%

在宅 16.5%

 

これがどういうことかわかりますか?

今、新宿区に摂食嚥下障害の高齢者が10,000人以上いるということです。

この10,000人を救うのに、20人や30人のグループでできるのか? ということです。

確かに、「チーム医療」や「地域一体型NST」、「多職種連携」など名前はカッコいいけれど、その人数で何人救えるのか。

これでは地域は救えないです。

こんなことをしていてもお釈迦様の雲の糸でしかない。

年間100人を救ったとしても、9,900人は見過ごされているということになります。

 

ということは、

地域の中で「見つける人」

この人は摂食嚥下障害だ、食べることが難しくなっている支援が必要な人だと見つけること。

その人をどうすれば結果が出せるかと「つなぐ人」。

そして、「結果を出す人」。

 

「見つける」「つなぐ」「結果を出す」「見つける」「つなぐ」「結果を出す」……という人たちを地域で無限に作り出すこと。

これがまさに「街づくり」です。

 

さあ、我々のプロジェクトをもう一度見て見てください。

 

「1.介護職の食に対する意識の向上」

何をやっているかというと、これは「見つける」ということです。

「見つける」人をいっぱい作る、ということ。

(生活の)現場に入ってそこで見つけるのはホームヘルパーさんでしょう。

だから1丁目1番地(最初の取り組み)はホームヘルパー研修だったわけです。

 

そして「2.食支援職種のネットワークづくり」をして「つなぐ」。

 

さらに「3.食支援の地域での実践」で「結果を出す」。

 

ここでも「見つける」「つなぐ」「結果を出す」「見つける」「つなぐ」「結果を出す」……。

 

だから新食研がやっていることは「街づくり」なんです。

 

我々はシステムで何とかしようと思っているのではないのです。

この街の、この10,000人というサイズをどうやって守れるかを考えているのです。これはほかの地域には決してないことです。

 

我々の仲間の話です。

僕の口腔ケアの講演会を聞いたホームヘルパーさんがいました。

そして、自分の利用者さんが食べられなくなった際、

「五島先生は口腔ケアでマッサージをしたら食べられるようになると言っていた。では、やってみようかなと思って、やってみたら食べられるようになりました! 五島先生、口腔ケアってすごいですね」と言うんですが、これは「やったあなたがすごい」という話ですね。

 

この人は「見つけて、結果を出した」のです。

見つけて、結果を出す人が、ホームヘルパーさんの中から出てきた。

まさに、こういう人を作り出すことです。

 

ということは、我々がめざしているのは何か。

 

最期まで

口から食べられる国

日本

 

です。

 

この国のサイズで何とか頑張ろうと思ったら、

やらなければいけないことは「食べられる街を作らなければならない」ということです。

 

ご清聴、ありがとうございました。

 

 

<文責:下平貴子 Shimohira Takako フリーランス編集者>

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