羽村太雅: 獣害問題に取り組む科学館の挑戦

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獣害問題に取り組む科学館の挑戦

手作り科学館 Exedraは2018年1月14日、千葉県柏市にオープンした私設科学館だ。柏駅前にある古い空きアパートを1棟借り受け、東京大学柏キャンパスの大学院生らからなる科学コミュニケーション団体がDIYで改修した。
現役の研究者や大学院生から研究現場の最新のトレンドを聞けること、実験や工作などが楽しめることが特徴のひとつだ。人が住まなくなり廃墟と化した空き物件をリノベーションして活用したり、虫食いで廃棄される無農薬ブルーベリーを実験で使ったりと、地域の課題に寄り添い可視化し、科学コミュニケーションを介して社会問題の解決に少しでも貢献したいと、様々な取り組みをおこなってきた。その課題のひとつが獣害だ。
田畑や森、生態系を荒らすなどの理由で野生動物がやむなく駆除されている。しかし、その骨や皮の利活用率は極めて低い。そこで標本にして展示したり、骨のキーホルダーやレザーの名刺入れなどを制作・販売したりと利活用を進めている。捕獲し、解剖し、標本にする過程では、動物たちは生態や進化の歴史、体の構造と機能の関係など、多くのことを教えてくれる。そもそも獣害の多くは人間の行動や生活様式の変化に伴って野生動物の行動が変わったことにより引き起こされている。したがって、将来的に駆除という行為そのものが必要なくなるためには、人間の意識と行動を変える必要がある。そこで革の利活用の一環として、レザーでブレスレットを作る工作の材料と必要な道具を、解説冊子と同梱した教材を開発した。今後も、科学館の立場からこの課題の解決に貢献していきたい。

羽村太雅 Hamura Taiga

手作り科学館 Exedra 館長 / 柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)会長/ 自己紹介はこちら

獣害問題に取り組む科学館の挑戦

 羽村太雅:獣害問題に取り組む科学館の挑戦

はい、皆さんこんにちは。羽村と申します。今日はですね、我々が取り組んでいる動物に関する取り組みについて紹介をさせていただきたいと思います。

まず初めに簡単に自己紹介をさせていただきます。私、もともとはですね東大の大学院で惑星科学を専攻しておりました。地球外にですね、生命がいるんじゃないかというそんな夢を抱いてですね、自分が死ぬまでにこう地球外生命を手の平にのせてみたいという思いで研究を行っていました。その頃自分たちが思っていたその思いとかそれから夢みたいなものを多くの人と分かち合いたいなと思って、科学のことを伝える団体を作って活動を続けてきました。その後色んなところでお仕事をしながら最後に書いていますけれども古い空きアパートをDIYで改修した科学館を2018年の1月から運営しております。もともと単身用のアパートだったところをみんなでDIYしてですね、徐々に徐々に今真ん中の段の左側に表示されているようなそんな科学館に作り替えてきました。最近は子供たちがですね、毎月通ってきていろんな実験などに取り組みながら未来の科学者を育成するようなそんな取り組みも始まっています。

私、もともと惑星科学が専門なので今日のこういった場でどんなお話をしようかなとずっと考えていたんですけれども、ちょうど2019年頃からですね、野生動物に関する問題に取り組み始めたのでそれについて紹介したいと思います。これからのお話は皆さんずっとですね、こんな時自分だったらどうするだろうか、そんな問いを自分の心に対して投げかけながら聞いていただければと思います。

今日はですね、中でも特にこの左に画像が出ていますキョンについてですね、こちら千葉県でとっても今増えている特定外来生物ですけどもこの外来生物の問題を一つの例にですね、お話をしていきたいと思います。野生動物の問題、一口に問題といってもですね、その種類は様々ですね。まあ例えば皆さんのご自宅の周りに野生動物が増えてくると何が起こるかですね。シカだったりキョンなんてのは体にマダニがいっぱい付いていますのでそういったダニを落としてしまうかもしれないし、それで病気になるかもしれない。それから鳴き声も凄まじいんですね。縄張り争いをする声で夜も眠れないなんて声がよく聞かれます。せっかく花壇にですね、お花を植えても食べられてしまったり、それから畑の農作物も食い散らかされたり、体当たりされてけがをするなんてこともあり得ますよね。さらにですね。山の方では何が起こっているかというと、山ではですね、豊かな自然を食い荒らされて森が枯れ、大地が水を保持できなくなって土砂崩れが起きる、地形が変わってしまうなんてことも起こっています。さらにですね、野生動物が入ってきてもともといた動物と交配が進むとそれまでいた地域固有のDNAってのが失われていしまうという危機感も持たれていますね。おまけにそれまでその在来の地で生きていた生き物が絶滅してしまう食べられてしまったり、住処を追われてしまったりという事も問題になっています。

こんな時皆さんだったらどうするでしょうか。私はまずは原因を知ることが大事だと思って様々な原因を調べてみました。特に外来生物というのは多くの場合、人間の行動とか意識によって引き起こされている問題であることが多いですよね。その意識や行動を変えていこうという事を思いましたがなかなか解決には時間がかかります。そして殺すという事に対して抵抗がある人はよく言うのが「共存の道を探る」という事ですね。人間と野生動物それぞれのテリトリーで生きていけばいいじゃないか、という事もよく取りざたされるんですけどこれは冷静に考えると課題を未来に先送りしているだけなんですよね。その結果を行われているのが駆除という行為ですね。これは命を奪う行為ですので賛否両論ありますけれども短期的には成果がありますね。ただ根絶に向けては継続していくことが必要でこれもなかなか一朝一夕には終わらない問題です。よく駆除はどうして必要なのかというふうに聞かれますけどもそれはですね、その目の前の一体、一匹がかわいそうだなという思いよりもその先にですね、もしかしたらその一体によって絶滅させられてしまうかもしれないたくさんの命があるからこそ、そこに光を当て敢えて止む無く殺さざるを得ないそんな現状があるわけですね。

ここまでは多くの方にはお話しすると頭では理解してもらえるお話かと思いますけどじゃあ皆さんの目の前に駆除された個体が現れた、まあ謂わば死体が現れた、ですね。皆さんならどうするでしょうか。よく聞かれるのはですね、仕方ない、利活用しましょう、という話ですね。例えば肉を食べましょう。ジビエ肉なんて言われたりしますね。そして人間が食べきれない部分についてはペットフードに加工しましょうと。それでも処理しきれない分は肥料にして大地に循環させましょう。使える部分は毛皮だったりレザーですね。財布にしてみたりですね、いろんなものを作っていきましょう。それからスカルって頭の骨ですね。これはアートを施してみたりそれから角はですね、アクセサリーに加工したりして使えるんじゃないか。こんなことをよく言われるんですね。

でも今日の問いは皆さんならどうしますか、ですね。皆さんの場合、何かしたいと思っていただいたとしてもそれを実際に行うためのハードルは結構高いんじゃないかと思います。まずですね、目の前にいる一体だけではないですね。例えばキョンだけでも1年間で8000頭以上が駆除されています。日本全国でみるとシカとイノシシだけでも100万頭以上、110万頭以上近くが駆除されているんですね。ずーっと続く問題です。そしてなかなかそれで儲かるということは難しいですね。とにかく高くなりますし、産業競争力が極めて低いですね。しかも免許が必要だったり、高額の罠を揃えなきゃいけなかったり、うっかり病気になってしまっても困りますよね。ですので様々な問題を抱えているんですね。今日は特にこの競争力の部分ですね、ここについて少しお話をしようと思います。

まず肉ですね。肉を使うためには指定の処理場で処理しなければわけですけれども、そこに1時間以内に持っていかなければいけないですね。そうするとそのエリアの周りでしか利用できない。さらに例えば皆さんがよく召し上がっているであろうブタとかウシであれば出荷のタイミングは決まってますのでみんな同じぐらいのサイズで出荷されてくるわけですけれども、例えば猪でしたら小さなイノシシも獲れますし大きなイノシシも獲れるわけです。そうすると個体サイズに依った機械化も難しいし、季節によって品質も安定しない、肉質も不安定になってしまうんですね。おまけに野生動物ですので収量が少なかったり放射線検査が必要になって検体を出さなきゃいけなかったり。せっかく肉まで精肉しても多くの人は食べ慣れていないのでこんなに高いんだったらブタ食べようかなとかですね、今日はウシにしようかとか、シカとかイノシシが選ばれる理由ってなかなかないわけですね。

そして革もさらにハードルが高いですね。一般的には革というのは食肉の副産物として、謂わば捨てられるものとして出てくるわけですけれども、処理しきれない野生動物の革を使おうと思うとわざわざ剥かないといけないですよね。その時点でスタートラインが違うわけです。おまけに例えばキョンだったらウシに比べればものすごく小さいですね。キョンというのは中型犬ぐらいのサイズです。革も非常に小さいですね。でも鞣し加工にかかるお金っていうのはキョンの方が高くなってくるんですね。枚数を集めるのも大変です。傷があることもあります。野生下でけんかをしてついた傷とかですね。そういうところがあると、取り都合が非常に悪くなって革の使える面積が小さくなっていくわけですね。なかなかに難しいそんなハードルがあります。

改めて問いたいと思います。こんな時皆さんだったどうしますか。我々はですね科学館を運営しています。この科学館の立場から未来ですね、今では駆除しなければならないという現実がありますけど、未来に駆除しなくても済むようなそんな社会を実現したいと思って取り組みを進めています。

それがこれですね。千葉県の柏市にある手作り科学館Exedraという場所です。ここで我々が掲げているのは科学の現場を見せることですね。見せるっていうのは魅力的なっていう意味もあれば実際に目で見ていただくっていう意味もありますけれども、現場を皆さんにご覧いただきたいというふうに考えていて様々な取り組みにチャレンジしています。今回のこの問題に関しては「野生動物つかまえた」という名前の教材のキットを作って捕まえられた動物たちが教えてくれることをまとめた冊子を作りました。そして併せてですねレザーのブレスレットを作れるそんな体験型の教材キットを作ったんですね。それを読んでいただくと野生化で動物はどんなふうに暮らしているのかな。解剖すると筋肉はこんな風についているよ。骨の構造はこうなっているよ。内臓の中を見てみるとどうかな。場合によっては胎児が出てくることもあります。さらに他の動物と比べてみると進化の歴史を学び取ることもできるよね。そんなことを学べる教材キットを作って多くの人に広めていこうという事を考えました。他にもですね教材だけでなくてそれを実際に使ってレザーブレスレットを作る体験講座を学んだり、他ここに示しているのは上の方が作っているところですね。それから中段が講座の様子。他にも駆除された野生動物、解剖していく最中に出てきた様々パーツをですね、標本化して出張展示を行ったりですとか、それから私が使っているこの名刺入れもそうなんですけれども、レザーの名刺入れやペンケース、それからイヤリングやピアスなどにも加工して様々ところで提供をしたりしています。このイヤリングとかピアスに関しては柏市のふるさと納税の返礼品にも指定していただいて、多くの方に使っていただいているものですね。シンプルな利活用の取り組みとそれから多くの方にですね、その意義を届けるような体験講座そして場合によっては解剖体験なんてのも科学館の立場からできることとして取り組んでいて、最終的には野生動物の問題に対する人々のですね、意識と行動を変えていきたいという風に考えています。

野生動物が、特に外来生物が問題になるのは多くの場合人間が飼っていた生き物を野に放ってしまったりとか、うっかり「かわいい」とかと言って餌をあげたりすると餌をもらった生き物は人間に近づいてもいいんだと思って外に出てきたりするわけですね。そういった人間の行動を変える、そして距離を置いて生活をするというそうした意識や行動をかえるきっかけとしての利活用というのを我々は取り組んでいます。いずれこの駆除という行為そのものが必要なくなる未来を目指してこうした問題に取り組んでいきたいと思っていますので是非皆さんにお力をお借りできればと思います。

ご清聴いただきありがとうございました。

このプレゼンテーションは動画をもとにくるまさんがテキスト化をしてくれました。
くるまさんからは次のメッセージを頂いています。
「害獣駆除を産業に昇華させるには多くの課題があることが分かった。」
くるまさん どうも有り難うございました。

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