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意思決定支援~納得して決めるために~
病院で働いていた時、患者に寄り添いたい、そんな思いでコミュニケーションを学び、傾聴の技術を身に着け、緩和ケアを学びました。でも、「家に帰りたい、どうしたら良いの?」「次の治療どうしたら良いの?」などという問いに答えることは出来ませんでした。そんな経験から、私は今「医療における意思決定支援」を行っています。意思決定支援とは何をすることなのか?私たち楽患ねっとでは次のように定義しています。「患者の意思決定を困難にしている”真の課題”を抽出し、納得できる解決方法を共に考えること」患者が決められない、その原因を見つける事が第一歩であり、もっとも重要な点です。原因が見つかれば、おのずと解決への糸口が見つかるはず。患者さんと共に納得のいく道を探ること。少しでも後悔しない方法を選べるようサポートすること。ではどうしたら”真の課題”を見つけることができるのか?当日その方法をお伝えします。
岩本ゆり
楽患ナース訪問看護ステーション
意思決定支援~納得して決めるために~
皆さん、こんにちは。ご紹介にあずかりました、楽患ナースの岩本と申します。今日は、よろしくお願いいたします。
ではまず、さっそくですが、「意思決定支援」
最近流行りの言葉と言われていますけれど、意思決定支援とは何だと思いますか?
私は、「決めることのお手伝い」 そういうふうに思っています。
そして、そのなかで一番大切なことは、「患者さんが納得すること」 そういうふうに思っています。
では、なぜ私が意思決定支援をしようと思ったのか、そのことからお話したいと思います。
さっき永井先生が、「自分は死ぬとは思っていない人が多い」とおっしゃっていたんですが、私は小学生ぐらいの頃から、「自分はいつ死ぬんだろう」って考えていました。何かNHKの番組を見れば、交通事故で死んだ人やら火事で死んだ人、死ぬ話ばかりやっている。TVってすごい怖いものだ、というふうに思っていました。
そうやって大きくなっていって、自分が職業を選択するときに、“死”とか“生きる”とか、そういうところから遠いところにある職業を選択するというふうには、考えられませんでした。
そこで、「死んでいく人に一番近いところにいる看護師になりたい」 そう思って看護師になりました。
看護師になって病院で働き始めて、たくさんの亡くなっていく方にお会いしました。
「私は“人生”生ききって、すごく幸せ」 そう言って亡くなる方もいれば、「こんなはずじゃなかった、こんな人生じゃなかった、とても後悔している」 そう言って亡くなっていく方もいらっしゃいました。
「後悔している」という方にお会いしたとき、私は自分が「何ができるのか」というふうに考えました。
その時、「せめて医療のなかでは『後悔する』という選択をして欲しくない」
そう思って、「意思決定を支援をする看護師になろう」 そう思いました。
そこで、2003年に「医療コーディネーター」という名称で、意思決定の支援を始めました。
始めた当初、「医療コーディネーターって、どんな仕事ですか?」と聞かれて、「患者さんが納得して医療を受けるために、意思決定を支援する看護師です」 そう説明しました。
すると、医療関係者は「うん、何となくわかる気がする」って、おっしゃってくれたのですが、
メディアの方ですとか一般市民の方にお話をすると、「納得して医療を受けるって、うーん、そんなに大事なのかな。それよりもいい先生、いい病院にかかって治してもらう、そっちの方が大事なんじゃないの」ということをよく聞きました。
それから10年以上たって、「納得して医療を受ける」 もう、これは当たり前のことになってきました。
それは、なぜなのでしょうか?
それは、「医療とは不確実なものであり、病とは一時のものではなくて付き合い続けていかなくてはならないもの」
そういう考えが浸透してきたからではないでしょうか。
では、ここから具体的にどんなふうに意思決定支援していくのか、という話をしたいと思います。
皆さん、想像してみて下さい。
あなたの目の前に、もうすぐ命が終わろうとしている患者さんがいらっしゃいます。その方からこんな相談を受けました。
「私は家にいたいの。でも、家族に面倒をかけたくないの…」
そう言われたら、どんなふうに支援しますか?
まずは「傾聴」、そして「共感」。
そして、その後どうするでしょうか? いろいろ聞きたくなるんじゃないでしょうか。
「家にいたい、そういうけれど訪問診療入ってる? 訪問看護入っている?」
「家にいられなくなったらどうするの? 病院はちゃんと話をしていますか?」
「家族がいる。娘さんですか? どのぐらい来られますか?」
そんなことをいろいろ聞いてみたくなると思います。
たくさん情報収集をして、そこに充足していないものがあれば、情報提供をしていくと思います。
情報提供を十分にして、
さて、あなたはこの問いに答えられたでしょうか?
「家にいたい。でも、家族に面倒をかけたくない…」
どうでしょうか。答えはNOだと思います。
意思決定支援は、情報提供だけではできないのです。
もちろん、意思決定支援の中に情報提供は入っていますので、情報提供だけではできないと思っています。
意思決定支援は、なぜその人が決められないのか、その課題を抽出して解決する。
意思決定支援のプロセスです。
まず、その人がどういう状況に置かれているのか、「現状を把握」します。それから、その人がなぜ決められないのか、その「課題を抽出」します。
それから、それに対して解決していくための「打ち手を提案」していきます。
こうやってプロセスを言われても、なかなかどうしていいのかわからないと思います。
NPO法人楽患ねっとでは、次のように定義しています。
意思決定支援とは、
「患者の意思決定を困難にしている“真の課題”を抽出し、納得できる解決方法を共に考えること」
これをするために、私はこのような手順を踏んでいます。
まず、患者さんとじっくり話をします。
話をするときには、こちらから何かを問いかけるのではなく、相手にオープンに話をしてもらいます。
医療コーディネーターで関わるときは、1時間ぐらいずっと相手がお話をしているという状況になりますが、その話を聞いていくなかで、これからご紹介する4つの手順のなかのどこに、その課題が隠れているのかということを考えながら話を聞いていきます。
1つ目が「知識」
情報の部分です。ここが充足しているか、不足しているのか。
それから、その人の「価値観」
その人がどんな風に生きていきたいと思っているのか、何を大切にしているのか。
3つ目は、「手段」
こうしたいと思っても、その方法がわかっているか。
4つ目、一番大事な「感情」です。
知識や価値観があったとしても、頭で「こうした方がいい」 そう思っても、そこに感情がちゃんと付いてきているか。
このどこかが問題、課題になっているか、それを考えながらお話を聞いていきます。
では、1つ事例を考えていきたいと思います。
Aさんという方がいます。先ほどと同じ問いですね。
「私はこのまま家にいたいの。でも、家族に面倒をかけたくない。どうしたら良いの?」
先ほどの4つの手順に照らし合わせて考えていきたいと思います。
まず、1つめは「情報」です。
Aさんは元ヘルパーさんでした。そして、ご主人を長期に渡ってご自宅で介護されていました。
介護保険とは何か、人が死んでいくとはどんなことなのか、よくわかっている方でした。
そして、Aさん自身、自分の予後が短いということをわかっていらっしゃいました。
2つ目は「価値観」です。
家で過ごしたい。何かあれば、すぐに病院に行けるような状況はあったのですが、「家で過ごしたい」「ギリギリまで家にいたい」 そう思っていました。
そして、「慣れ親しんだ人とだけ関わっていきたい」 そう思っていました。
3つ目は、「手段」です。
介護保険の手続きはできていて、いつでも利用できる状態になっていました。
しかし、訪問介護は利用していませんでした。
Aさんにとって訪問介護というのは、「たくさんの人が関わる」というところから、なかなか、「慣れ親しんだ人とだけ関わりたい」という、ご自分の価値観に合わないという部分があったようです。
ただ、ご自宅で独居でしたから、最後まで過ごすということになると、やはり訪問介護かご家族の手を借りるということになっていきます。
A さんの感情としては、「娘さんにお願いしたい」と思っていました。
ご主人を長期間介護されていましたので、長い間の介護というのがどんなに負担になるかということを身をもって知っていました。
ですから、娘さんに介護して欲しいという気持ちがあっても、「短い時間であればお願いしたい」というふうに思っていました。
こうやって4つに分けて考えていくと、
「じゃあ何でAさんは娘さんに聞かないの?」というふうに思いますよね。
そうなんです、そこが彼女の「課題」でした。
彼女の課題は、まず「自分の生命予後がどのぐらいであるのか」 それを知って、そして娘さんに「自宅で面倒を見て欲しい」と聞いてみたい、しかし聞けない。そこが、課題でした。
自分の予後をしっかりと聞くというのは、やはり辛いことですし、「自分の面倒を見てくれるかどうか娘さんに直接聞くというのは、やはりできない」ということでした。
私は、その課題に対してこう対応しました。
まずは、一番大切なこと。Aさんと話し合って見つけた、この課題を一緒に話し合う。
私は、「これは課題かな」と思ったことをちゃんとテーブルに載せて、相手と話し合うということをしました。
その中でAさんから、「私は聞けない。だから、看護師さん聞いて欲しい」 そういうふうに言われました。
そこで、病院の方や訪問診療の先生と一緒にお話をして、看護師の方から娘さんに「具体的な生命予後」そして「在宅で介護できるか」ということをお聞きしました。
娘さんは、「1週間程度の短期間であれば、何とかやれると思う。それ以上になったときは、また仕切り直しができますが」と聞かれました。
「はい、それはできますよ」ということで意思決定をして、さっそく看取りに向けた在宅での介護が始まりました。
その意思決定をした次の日、Aさんはご自宅のベッドの上で、娘さんの腕に抱かれながら亡くなっていきました。
私は、医療コーディネーターになって13年たちます。
医療コーディネーターは、まったく初めての、初対面の方にお会いして、相談を受けて、意思決定を支援していきます。
それは、やはり信頼関係を構築するという意味では、とても難しいなぁというふうに感じながらやっています。
訪問看護師になって6年になります。
訪問看護というのは、ご自宅に伺ってじっくりと話して、信頼関係を構築して、そしてその人の価値観を知ることができる。
意思決定を支援するという上で、非常に良いポジションにいるな、というふうに感じています。
ここから見せる写真は、私が訪問看護でお会いした方々です。
この方は、新婚旅行でお土産に買ってきたベニスのお面を後ろに飾って、一緒に写真を撮りました。お誕生日の写真でした。この方、亡くなる49日前です。
この方は、デイサービスでご自身がされた塗り絵を一緒に撮りました。やはり誕生日の写真です。亡くなられる35日前の写真です。
この方は、お誕生日じゃなかったんですけど、「在宅医療はとってもいいものだ。でも、全然知らなかった。もっとたくさんの人に知って欲しい」
そういうふうにおっしゃって、写真撮影させて下さいました。亡くなる21日前の写真です。
「意思決定支援は難しい」 そう言われます。私自身も、とても難しいと思っています。
ただ、意思決定を支援するときに、信頼関係があって、その人の価値観を尊重してくれる人が側にいる、それだけでもとっても力になると思うんです。
でも、私たち専門職は、それだけではいけないというふうに思います。
側にいるだけでなくて、その決められない人が持っている課題をきちんと相手とのなかで抽出して、出して、そしてテーブルの上に置いて、一緒に話し合って次の一手を考えていく。
そこまでやる、それがとても大事なことだというふうに思っています。
私はそれを使命に、これからもやっていきたいと思っています。
ご静聴ありがとうございました。
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