内藤 聡:言葉の受粉を目指すために

  • 内容:Contents
  • プレゼンター:Presenter
  • テキスト:Transcript

言葉の受粉を目指すために

「マイクの前で語り掛ける生活」が気付けば26年・・・いつの間にかそんなに経っていました。1995年。大学2年生(20歳の時)にこの世界に飛び込んでから、ラジオの世界の虜になりました。あの頃よりも、今のほうがもっとラジオ好きな人間になっているのかもしれません。「自分の言葉」で何を伝えよう?どんな風に聞こえているだろう?日々そんなことを考えながら。「言葉」の力に驚き、感動し、引き込まれ、怖くなり、時には傷付きもしました。「生きた言葉」って何だろう?今でも明確に答えが出ない問題です。僕の言葉で元気になってくれる人がいる。待ってくれている人がいる。僕にとって必要とされていることが栄養源。生放送中に見えない相手に「言葉」が「空気」になって相手に届くのが手に取るように分かる時がある。ミツバチが「受粉」するように「生きた言葉」も飛び回る。言葉がちゃんと成長するのだ。そして実になるのだ。これからもその実を育てる生き方をしたい。

内藤 聡 Satoshi NAITŌ

ラジオパーソナリティ/ぐんま特使/藤岡市観光特使

言葉の受粉を目指すために

 みなさん、こんにちは! よろしくお願いします。ありがとうございます。
 話によると10時30分からスタートして、これまでずーっとノンストップでお話しを聞くっていうことも大変ですよね。ファンはいると思いますが。
 あらためまして、大トリということで、MEDぐんま主催されている岡田先生は意地悪だなぁと思いましたね。これだけプレゼンテーションに慣れていらっしゃる皆さんがずっと登場してるのに、ぼくなんかが何をしゃべればいいのかと。真っ白な状態ではございますが、「ボンジーア(Bom dia!)」です! ぼくはラジオのパーソナリティという仕事をさせていただいてます、「ぼんじあ~!」、ポルトガル語で「おはようございます」。
 みなさんご存知の方、多いと思いますが、この群馬も日系ブラジル人の方もたくさんいらっしゃいますね。ぼくがどういう人間なのかというのを……今日は午後4時までなんですよね。なのでちょっと走りながらやります。
「言葉の受粉を目指すために」ということで、今日はタイトルをつけさせていただきました。「なんやそれ」と。「言葉の受粉」ってなんだろうと。「目指すために」ってどんなことなんだろうと、皆さんももう思われたかもしれません。
 きょうはじつはこのステージの前に「ツナガリズム祭」というお祭りがありまして、前橋の中心商店街、先程30分40分前までステージに上がっておりました。それから駐車場で着替えまして、いま来ました。さっきまで短パンだったんですけど。でもその会場でも多くの方がリスナーさん含めてお越しいただいたんですよね。今日はあばれる君がゲストで来てくれて。で、あばれる君といまずっとしゃべってきたんです。
 でもね、そのときにもやっぱり思うんですね。本当の言葉ってちゃんと通じるなと思うんです。うわべの言葉ってなかなか通じない。皆さんこれってお分かりだと思いますけども。
(スライドを参照しながら)ぼくのプロフィール、1975年、来月で47歳になります。藤岡で生まれました。現在群馬県特使、藤岡市の観光特使をやらせていただいております。地元藤岡に戻って8年ですかね。いまは「WAI WAI Groovin’」を、FMぐんまで喋らせていただいております。
 番組冒頭「ぼんじあ~!」という挨拶からやらせていただいてるんですね。今日は県外でお聴き、またはご覧になってる皆さんもいらっしゃると思いますが、FMぐんまのラジオ局でございます。
 もともとぼくは大学時代にですね、関西の大学に行っておりまして、二十歳でラジオの世界に入りました。今年26年目。まあプロフィールには25年って書いてありますけども、26年目です。ラジオをスタートするきっかけというのがありまして、それはハガキを送ったことがスタートだったんですね。
 赤坂泰彦というDJがいて、その赤坂泰彦にハガキを送り、それが読まれたんです。
 あの方が選んでくれた言葉が、ハガキを読まれたその言葉が生きてたんですね…。ぼくにズキーン!と刺さりました。中学校3年生のときです。その瞬間に鳥肌立ったんです。うわっ、すごいなって。
 小さなラジオです。ラジカセです。小さな音で夜中聴いてる。その夜中聴いてる声にブワーッと心が、グーッとつかまれた。
 次の朝、学校に行くとクラス中が「昨日読まれたのおまえじゃない?」
 「FMぐんま、群馬で聴いてる聡、受験頑張れ」って言ってくれたんです。
 リクエスト、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」、ドーンと流れる。ズワーッと鳥肌。この鳥肌が、ぼくをここまでにしちゃいました。責任は赤坂泰彦なんです(場内笑)。
 でもね、ぼくは今日は医療の皆さんがいらっしゃるということで、じつはぼく医療と関わりがあるんですね。というのは…
(スライドを参照しながら)これ、2歳・3歳くらいのぼくです。可愛いですねー。ぷにぷにですねー。横にいるの母親です。割りかし綺麗でしょ。キミエって言います。今日は母の日ですから。いつも母に感謝してますけども、ぼくはいま藤岡で実家のすぐ裏に家を建てて、徒歩20秒くらいで実家に行けます。
 今日も母さんは元気にバラを育てていますが、じつはこれ(スライドを指しながら)病院なんですよねぇ。多野病院という藤岡にある病院です、これが談話室だと思います、小児科。ぼくは小さい頃「ネフローゼ」という病気でした。腎臓病ですね。医療に詳しい方、今日はお越しいただいていると思いますので。
 ぼくは小学校上がるまで、生後半年から4歳ぐらいまでずっとずーっと病院で、生活してました。母親が毎晩、ぼくの隣で寝てくれました。父親が仕事終わると必ず病院に駆けつけてくれました。おじいちゃんおばあちゃんは昼間ずっと、ぼくのそばに居てくれた。
 そこで皆さん、家族がね、ぼくに優しい言葉を掛けてくれたんですね。
「聡くん、これ飲んだら元気になるから」
「聡くん、この注射を打ったら良くなるよ」
 腎臓病というのはなかなか厄介な病気です。おしっこをするとその中に入ってる蛋白、その量でやはり病気が進行しているのかな、腎臓ですから。
 ですから体を冷やしちゃいけないから、プールも入っちゃいけない。小学校上がって元気だったけど、プール入ったことないんです。海に行ったとしても、海水浴場行ったとしても、ぼくはずっと待ってるだけだった。
 ただ、ぼくを責めるような奴らがいなかったんですよねえ。優しい奴らばっかりでした。
 牛乳飲んじゃいけないんです。味噌汁だって飲んじゃいけないんです、塩分が高いから。
 だから給食で出される牛乳、みんなが牛乳飲んでるとき、ぼくだけ「マミー」でした。マミーはいいんだって。そしたらみんなが「内藤だけいいなあ」「聡だけいいなあ」。
 おれ、特別だなあ。プール入りたくない……おれ入らなくて良いんだ。海入りたくない……おれ入らなくていいんだよ。
 でもその中でも、劣等感というよりはどちらかというと、みんなが受け入れてくれた。そこにも優しい言葉があったんです。
 優しい言葉に包まれて、ぼくはずーっと、もしかしたら幼少期からずーっと生活をしてきたんじゃないかなって思うことが多々あります。いまもそうです。
 今日だってあばれる君だってそうです。
 ここで紹介してくださった皆さんも、たぶん言葉を使われてる。言葉を使うって大変な仕事だと思うんですね。医療の世界でもそうなんです。
 ちなみにこれは別の病院ですが、ぼくはずーっとね、母親が本当に辛い思いをしたと思うのね。だからぼくの放送で、「小児科でいま入院してるんですよ、今日手術なんです」ってメッセージ、ものすごいいます。病室で聴いてんだな、
 ぼく病院が好きだったんです。母親が上がってくる音、廊下を歩いてくるその足音で、あ、お母さんが入ってきた。お父さん帰ってきた。判るんですよね。
 でもそのときにも、父親・母親・じいちゃん・ばあちゃん、ぼくにマイナスのことは一切言わなかった。
「必ず良くなるから」
 必ず良くなったんです。
 こんな新聞がありました(スライドを指しながら)。見てください、これ上毛新聞で初めて出たときね。汚いですね、古いですね。見てください。廊下で…書いてあるでしょ。「七夕の飾りが、病院の中にお目見えしたんだよ」。
 さて、ぼくどこにいるでしょうか?…はい、正解。これ作るために2時間掛かりました。
 これは懐かしい。でもね、病院で先生方が掛けてくれた言葉、看護師さんたちが掛けてくれた言葉、友達が掛けてくれた言葉、…いまでも覚えてるんですよ。
 小児科の小栗先生という方がぼくの担当医だったけど、小栗先生いまでも現役で活動されてるんじゃないか。
 その先生がぼくに、「聡くんは必ず良くなるんだよ」っていって背中をさすってくれた。それを覚えています。
 看護師の皆さんが「聡くーん」って言って、ナースセンターのところでものすごく遊んでくれて、それを覚えています。
 その言葉ってちゃんと覚えてるんですよね。46のぼくがちゃんと覚えてて、それってちゃんと「受粉」したからですよ。受粉してずーっとここ(胸を押さえて)に残っているからですよ。これは間違いないとぼくは思ってる。
 さっき言いました赤坂泰彦。中学校3年生のとき、ぼくは彼の番組にハガキを送る。ぼくの大先輩です。いまだに大好きな先輩。赤坂泰彦に興味を持ってもらった。で、ラジオの世界にのめり込んだ。
 で、ぼくね、2014年4月29日、デビューから19年目。(スライドを指しながら)これ誰か分かります? 男前! 爽やかでしょ? ぼくです。二十歳のときのぼくですよ! 拍手!
(場内拍手)
 ねえ(笑)。なんの拍手かごめんなさい、分かりませんけど、全く面影なし。ただこの19年目の春に共演が実現するんです。(スライドを指しながら)FM愛知のスタジオです。ぼくは長いことFM愛知というラジオ局で16年、番組を担当させてもらいました。
 同じタイムテーブル、要は番組表ですね。番組表に「月曜日 赤坂泰彦」「土曜日 内藤聡」載ったんです。ぼくの夢が実現した瞬間でもありました。
 ぼくいつも思うんですよね。口外宣言効果。いつもこれはいろんな小学校とか中学校とか高校とか、いろんな施設でお話しをさせてもらうときに必ず言う言葉です。口外宣言効果。
 口の外で宣言する、効果あるよ、そのとおりです。

 口に出そう、良い言葉を言っていこう。
 そうすれば必ず頭の中に、脳にスイッチ入りますよね。
 ビッグマウス、本田圭佑、サッカー選手。「今日の試合は、絶対に試合勝ちます」。
 ボクサー、「絶対に相手を叩きのめす」。

「いや、ちょっと今日自信ないんでやめときます」「今日ちょっとあの試合無理だと思うよ」っていうスポーツ選手、いない。そりゃそうですよね。
 ぼくの番組でもそうなんです。元気な言葉をちゃんと伝えたいな。
 そうすれば、元気がない人だって耳に入った瞬間、口に出した瞬間に何か変わるんじゃないかな? 思ったりもします。
 毎朝たくさんのメールをいただくんです。当たり前じゃないですよね? 朝忙しいときに、ぼくにメールを送れる。この前メールでクイズだけでも4000通来たんです。びっくりしませんか? FMぐんま。ローカル局です。おかしい、そんなことはない。まずない。
 ただメッセージも、平日普通に考えると1000通来るんです。この1000通、もちろんクイズとかもものすごく多い。そこはなかなか目を通せないかもしれないけど、すべて目を通す。なんでかと言うと、リスナーさんが限られた時間で、朝忙しい時間にメールを送ってくれる、これ大変な時間ですよ。朝お忙しい、また夜寝る前に、朝のことを考えて「今日こんなことがあったんです」、ぼくに日記のように送ってくれる。
 ぼくは交換日記だと思ってます。そのリスナーさんのメッセージを全部読むことによって、「この人はこういう病気だったんだな」、「この人は、あ、娘さん結婚したんだ」
 それを口に出さなくても、伝わる瞬間があるんですよ。それは
「病気で悩んでるんです」「いじめで悩んでるんです」「もうこの先どうしようかな」
 悩んでるメッセージだし、それ読まなくたって、
「○○さぁん、引いたから。読んだよ。頑張ったね! 良かったなあ」
 この言葉で、瞬間的にメールを読む以上に言葉通じるんですね。それがね、たまらないです。思いが言葉超えるときなんです。
 言葉よりも思いが届く瞬間があるんですね。それを実感すると、ラジオたまらないです。
 今日だってそうです。わざわざ名古屋からリスナーが会いに来てくれた。それも4人。
 彼女たちはぼくの番組を応援してくれてもう20年以上の、まぁ変な話ヘビーリスナーです。
 ぼくは彼女たちの生活のリズムも知ってるし、家族構成も知っています。でもそれが嫌な感じじゃない。なんでかというと信頼しているからです。信頼しているリスナーさんがずっとぼくを支えてくれる、そこには必ず生きた言葉を届けてくれるんですね。それを裏切りたくない。
 だから良い言葉、生きた言葉をずっと使っていきたいなと思ってます。
「やめとこうか、今日仕事。しんどいなぁ。でも踏ん張ろうよ」
 ぼく、頑張れって言葉嫌いなんです。だって頑張ってるから。皆さん頑張ってるんです。
 病気の人に「頑張ってください」。いや、頑張ってるんです。だからもう、頑張れって言葉、嫌なんです。だから優しい言葉にしたいんです。ああ、時間がもうどんどんない。
 リスナーさんもプロだから。うわべだけの話だったら絶対に通用しない。バレるんですよね。リスナーさんもプロ。プロがしゃべってるんだったらリスナーもプロなんです。それを裏切りたくない。
(スライドを参照しながら)ぼくは養蜂家やってます。ミツバチに出会いました。それは名古屋で生活しているときに師匠の船橋康貴という人間に出会ったんですね。で、彼と出会ってから「ミツバチが地球上から消える、人類は滅びる。あと4年で」…これ、誰の言葉か知ってますか?
 …アインシュタイン。アインシュタインがこれをとうの昔に言っている。2006年からミツバチがどんどんどんどん減少して、皆さんご存じです?
 皆さんの生活の中で、普段の生活の中で、ミツバチなかなか見えなくなった。チーンって鳴った、あと1分だ…。
 世界の100種類の作物種のうち、7割はミツバチが受粉してる、皆さん知ってました? 知ってますよね?
 ミツバチのために、居てくれるからぼくらはおいしいご飯食べれるんです。だから前橋の空気が綺麗な空に、ミツバチが飛ぶことを目指している。森が呼吸するのと同じに。
(スライドの三択クイズを参照ながら)コップ1杯分です……違うんです、ミツバチは一生分にティースプーン1杯と言われています。
(同じく次のクイズを参照しながら)何箇所で受粉するか知ってます? 1日3000箇所。
 これクイズにしようと思ったけど時間ないんで。
(同じく次のクイズを参照しながら)1秒間に何回はばたいてると思います? 正解! 230回。
(同じく次のクイズを参照しながら)次行きますよ。女王蜂は何個、卵産んでると思います? 1000個、正解。多いとき2000個と言われてます。
(同じく次のクイズを参照しながら)あと何年でいなくなると思ってます? ミツバチ。…20年…嘘、いまは5年と言われてる。どうします? 
 それを守るために少しでも力になれないかなと思って、ミツバチを育ててます。ぼくも面布かぶってミツバチを世話してます。
 ミツバチが触れる、そうすると世界がどんどんどんどん変わっていくんじゃないかな。言葉と一緒です。受粉すれば必ず実が成るんじゃないかな。
 だから生きた言葉を明日からも使っていきます。FMぐんま「WAI WAI Groovin’」、良かったら聴いてください。内藤でした、ありがとうございました。
 バタバタでした、すみません。ぜひ皆さんも良い言葉を使ってください。ありがとうございました。

テキスト化 「ろくや」さん

関連プレゼンテーション

  1. 小山珠美:すべての人に口から食べる幸せを!

    小山珠美:すべての人に口から食べる幸せを!

  2. 中野輝基: 日本のヨガをもっとアクセシブルに

    中野輝基: 日本のヨガをもっとアクセシブルに

  3. 田中伸弥:「普通のくらし。」

    田中伸弥:「普通のくらし。」

  4. 鎌田 剛:社会連携 ― 医療連携,多職種連携のその先

    鎌田 剛:社会連携 ― 医療連携,多職種連携のその先

  5. 河村 正剛:タイガーマスク運動の始まりとこれから

    河村 正剛:タイガーマスク運動の始まりとこれから

  6. 間々田 久渚・坂井 雄貴・手島 実優(矢嶋みどり役):「カランコエの花」+パネルディスカッション

    間々田 久渚・坂井 雄貴・手島 実優(矢嶋みどり役):「カランコエの花」+パネルディスカッション