佐々木淳:「医師の個人事業」から「地域医療インフラ」としての在宅医療へ

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「医師の個人事業」から「地域医療インフラ」としての在宅医療へ

日本人の約7割が人生の最期を住み慣れた自宅で過ごすことを望んでいますが、80%の方が病院で最期を迎えています。これは国際的にみても非常に高い水準です。一方、2040年には年間死亡者数は49万人増加するという試算があります。病院のベッド数が増えない中、増加する死亡を受け入れる場所は自宅以外にはありません。 在宅での看取りのために必要なのが在宅医療です。自宅での医療ニーズに対応することで、身体機能低下や認知症ケア、がんの緩和医療、在宅での看取りなどを包括的に支援します。国は在宅医療を推進していますが普及が進みません。その最大の障壁が365日×24時間対応の義務です。個人開業医にとって、一人で24時間対応し続けることは重荷です。これが在宅医療・在宅看取りの普及を阻む最大の要因となっています。在宅医療を標榜している診療所も、休日・夜間対応への限界などから、実際に看取りに対応しているのは少数です。 医師個人の犠牲の上に成り立つ在宅医療は持続可能ではありません。地域全体で24時間を支える仕組みを作る必要があります。 私たちは在宅専門医療機関として、当直の仕組みを持っています。この仕組みを地域の在宅医に開放することで、医師個人の負担を軽減し、結果として地域の在宅看取りを増やすことができるのではないかと考えました。 そこで、7つの地域の在宅クリニックと1年間連携し、休日・夜間対応を支援しました。1年後、7クリニックは合わせて在宅患者を318人増やし、看取り数も76人と前年比54人も増加していました。休日・夜間対応の負担を軽減することで、在宅医はより積極的に在宅医療や在宅看取りに取り組めることがわかりました。 避けられない看取り難民時代に向けて、地域の診診連携を通じた役割分担を推進していく必要があるのではないでしょうか。

佐々木 淳

医療法人社団悠翔会

「医師の個人事業」から「地域医療インフラ」としての在宅医療へ

みなさんこんにちは。
なんかちょっと、こういう紹介は、緊張しちゃうんですけど。
今日は私が取り組んでいる、在宅医療の領域でなにをしているのかというお話をちょっとしたいと思います。
皆さん自身は、人生の最後をどこで過ごしたいという風に思っていらっしゃいますか。
家で死にたいと思っている人はどれくらいいますか。
病院はいかがですか。
あれ、ほとんどいないですね。

各種調査が行われていて日本人はですね、だいたい少ないデータだと55%、多いものだと78%が自宅で
最後過ごしたいと答えてらっしゃいます。

皆さんご存じの通り日本というのはですね、多くの方が病院で亡くなります。
一番直近のデータだと、在宅死は13.9%という数字がありましたけども、
この在宅死という中にはですね、孤独死とか、母と子供が家で餓死していた、みたいなのも含まれますので、実際にきちんと、お家で終末期を看取っているというのは実はこの半分ぐらいじゃないかなとも言われています。

OECD加盟国という中でも日本というのは病院死が飛びぬけて多いということで、ちょっと問題なのかどうかはわかりませんけども、日本は世界でも看取れない国。高度成長になる前は日本って、大部分の方が畳の上で亡くなるという習慣でしたが、最近は病院でなくなるのが、皆さんのなかでも実は当たり前ということになっていると思います。

日本人は家で死にたいと思っているので、病院で亡くなっている、で、実はこれはひとつ大きな問題があってですね。
多死時代という言葉がありますけれども、実は日本ってこれから高齢化が進んでいく、人口自体は減っているんですけれども、高齢者は増えていきます。

高齢者が増えていくといことは、どういうことかというと、亡くなる方も増えていくんですね。
2040年まで亡くなる方が増え続け、2045年に死亡者のピークが来ると言われています。
これ棒グラフだけみると全然イメージ沸かないと思いますけど、人口を載せてみるとこんな感じですね。

2000年に亡くなった方は1年間で100万人です。100万人というのは、実は仙台市の人口と同じぐらいですね。
じゃあ140万人ってどれくらいなのというと、奈良県と同じぐらいです。

実はあの、2040年にかけてなくなる方は年間160万人を超えるんですけど、ちょっと160万人という自治体がなかったので、探してみたら、京都と神戸がちょうど150万前後だということで、神戸市や京都市が年間1つずつ消えていくぐらいの人口が、日本は今後ですね、無くなるということなんですけど。

この図で見る紫色の帯が実はですね、病院でなくなっている方なんです。
病院で亡くなる方は実はこれ以上増やせないんですね。
というのは病床の数自体がこれ以上増えない、ということになりますし、ベッド自体はこれから抑制されていくことになりますので、病院死はこれ以上増えない。一番下の水色が在宅死なんですけど、赤い帯が施設で亡くなっている方ですね。
じゃあこのオレンジは何かというと、死に場所が決まっていない人たちなんです。

病院死がこれ以上増えない、有料老人ホームでもこれ以上死ねないということになると、あとは在宅死しかないんですね。

私たちはだからこのオレンジの人たちを野垂れ死にさせるわけにはいかないので、まずぜひ在宅で看取りたいと思っているんですけど、ちなみに2040年までにですね、まぁいろんな統計データがあるんですが、だいたい40万人ぐらいが、現状でいくと看取りの場所がなくなると言われています。
40万人というのは結構な人数ですね。
私が仕事をしているのは、千葉県の柏市というところなんですけど、ちょうどそこの人口が40万人ぐらいです。

家で看取るために在宅医療がもちろん必要なんですね。
家での生活を支えて、最後まで家で暮らせるようにしてあげないといけないんですが、全国にクリニックというのは、だいたい5万5千件以上あるんですけども、

在宅医療をどれくらいしているのかをちょっと調べてみるとですね、まぁこんな感じですね。

在宅療養支援診療所といって、在宅医療をやりますという届け出自体は12000件あるんですけど、実際に年間100人以上の患者さんを診てますよという診療所は1000か所くらいしかないんですね。
全診療所の数でみると0.2%。

看取りになるともっと厳しいです。

1万2千件の在宅やってますというクリニックのうち実は約半数が看取りの経験がないんです。看取りをしたことがない。在宅医療をやっているのに。

で残りの看取りやってますよっていうところはどれくらい看取ってるんですか、ていうと平均すると、年間1~3人です。こんなもんなんですね。

私たちの診療所は年間実は600人くらいを看取りしていますけれども、こういうクリニックは実はごくわずかで、大部分のクリニックは看取りができていない状況なんですね。

これで40万人の看取り難民をどうやって支えるんだと。
仮に看取りをやったことがある診療所が6000件あるわけですから、この40万人の死亡をみなで手分けして看取ろうということにすると、1か所あたり55人の看取り増ということになります。

今現状一人が3人しか看取っていないクリニックが55人も看取れるのか、一週間に一人以上のペースで看取らなきゃいけないんです。

これはたぶん無理なんですね。

全国にこれだけたくさんあるクリニックの中のわずか6000件しか看取りをしないということになると、今そういうところで主治医を診てもらっている患者さんたちは、人生の最終段階通院できなくなったら、主治医を変えなきゃいけない。通院困難になったら主治医をかえるか、あるいは入院しなきゃいけないということになりますね。これは患者さんにとってもすごく不幸なことだと思います。

私はすべてのクリニックが在宅医療にぜひ参加をすればいいんじゃないか。
もっともっとたくさんのクリニックが在宅医療に参加をすれば、例えば40万人の死亡をですね、5万5千件のクリニックで、支えることができれば、1か所あたり7人で済む。
これはまぁ2か月に一人看取るぐらいのペースですから、まぁなんとなく現実的な感じがしますね。

もしこれができればですね、通院困難になったら主治医が変わるなんてことはなくて、患者さんは最後まで、慣れ親しんだ先生が診てくれるし、在宅医が限られた時間で信頼関係を作るなんてことに苦労する必要もなくなります。

じゃあなぜ在宅医療が増えないんだろうか。

これはまぁみなさん言うまでもないかもしれませんけど、365日、24時間対応在宅医療やらなきゃいけないんですね。

実際にその在宅医療が進まない理由をたくさんの調査が行われているんですけども、在宅やってて、これから撤退しますという先生に聞いてみると、約9割は緊急対応が苦痛だったと、答えています。

これから始めるとか、継続しているというクリニックも8割以上が緊急対応が大変だと言っています。在宅看取りが大変だという意見、それから自身の体力の問題というのをあげる方もいますけども、実はこれ、全部24時間対応に関連しているものですよね。
24時間というのはけっこうやっぱり大変で、これがあるから在宅が普及しない、ということになります。

私自身、2006年に自分で在宅のクリニックを立ち上げて、その時は24時間対応を確実にやるぞと地域に約束をしましたので、5年半コールをひとりで持ち続けましたけれども、大変でした。
その頃、30代でした。
私稼業したのが32歳でまだ若かったけれども、5年目には過労死を覚悟しました。
まわりから進められて、当直をいれようということになったんですけど、まぁそれでよかった。
私は32歳でも過労死しそうでしたけれども、今稼業医の平均年齢は35歳です。
とても24時間対応をこの人たちに任せられるかというと、それは難しいんじゃないかなと思うんですね。

逆に言えば、24時間対応を肩代わりしてあげれば、地域の先生たちは在宅医療ができるんじゃないかと考えました。

在宅やる診療所って3つの形態があります。
地域の開業医の先生ですね。
それから在宅医療を中心に据えて3人以上の常勤をかかえている機能強化型といわれている在宅のクリニック。
それから私たちのように、僕らのところに26人の常勤がいますけども、大きな診療所。
個人のクリニックは、一人でやるしかないです。
なおかつ、外来なんかもやってるんで、外来の最中によばれたら結構大変ですね。

機能強化型の在支診は、常勤医が複数いますから、何人かでコールを持ち合える。

私たち(大きな診療所)のようなところは、もう当直医を雇います。
当直の先生がいるので、僕は当直しないし、週末もこうやってこういう場所にいられるんですね。

私たち(大きな診療所)の当直機能をもし個人の先生たちに提供できれば、個人の先生たちはもっとたくさん
在宅医療ができるし、在宅看取りもできるんじゃないか、と考えて2年前から在宅機能の地域への一般開放を始めました。

今13クリニックに提供しています。
ただ実際にはそんなにクリニック間の連携って非常に難しいんですね。
なぜか。

ひとつはクリニック毎の規模や診療圏が違う。
5人しか在宅を診てない先生と200人診てる先生がコールを持ち合うというのはちょっと不公平感がありますね。なおかつ、自転車でまわっている先生と首都高で車で回る先生もやっぱり形がちがうと連携しにくい。

それから認知症中心に診てる先生と、末期がん中心に診てる先生ではやはり連携がしにくい。37.5度でも85歳が往診いってやるかという先生もいれば、40度でも解熱剤を飲んで、朝まで様子をみろという先生もいるかもしれません。緊急対応の基準が違うと、やはりいざこざの原因になりますね。

なにより重要なのは、情報共有の難しさ。
電子カルテのシステムがみんなばらばらだったり、紙カルテの先生がいたりすると、受け持ったほかの患者さんから電話かかってきても、その人がどういう病気なのか、その症状がなにを意味しているのか、判断がすごく難しい。

実は非常に大きいのは、この人間関係の煩わしさですね。
自分より目上の先生に、ちょっと休みたいので、コールもってくれとは頼みにくいですよね。
それからやっぱり自分の大事な患者さんをあの先生に任せて、ましてや患者をとられたらどうしよう、みたいなことをやっぱり開業医は考えちゃいます。

だけどそんなこといっている場合じゃないんですね。
私たちは、一応これをですね、「しくみ化」することで、クリアしました。

具体的には緊急対応の基準を標準化しました。

患者から来てくれと言われたら、どんなに軽傷でも必ず行く。
患者は来なくてもいいと言ってても、高熱がでてたり腹痛だったりしたら、基本的には往診に行く。
基準を決めたんですね。

それから、当直医がきちんと仕事をしてるかトレースできるように電話対応の記録を録音する。
それから、診療には事務当直が同行して、診療内容を記録する、ということをしました。
情報共有するためには電子カルテシステムも共有しようということで、これも共有してます。
それによって私たちは、在宅の主治医の先生と私たちの当直医がリアルタイムで情報共有できるようになりました。

人間関係の煩わしさを消すためにも、契約に基づくシステムにしました。
具体的には、患者さん一人あたりいくらという待機料を決めて、患者さんの数に応じて分担金を支払う形にしました。

結果として何が起こったか。

1年以上連携した7クリニックの1年間の経過を見てみると、すべてのクリニックで、在宅患者数が大幅に増加しました。
1年間で318人患者数が増えました。
1か月あたりの平均管理患者数が32人増えてます。

在宅看取り数も、大幅に増えました。
今まで22人だった年間の看取りが、わずか1年間で76人に増えました。
54人も増えたんですね。

特筆すべきは、この4クリニック。
前年まで看取りをしてなかったんですね。
夜間連勤をし始めて看取りに取り組み、なんとこの4クリニックだけで24人、1クリニックあたり6人ですね平均。これはだいたい、1クリニックあたり7人という最低目標にちょっと近づいた。

嬉しい副作用もあるんですね。夜間コールの頻度が減りました。
これまで主治医や常勤医が持ち回りでオンコールをしていたときにはですね、
だいたい87人に一人が一晩にコールをかけてきたんですが、
当直を共有するようになってから、電話がかかってくる件数が63%減りました。
これは夜自分が面倒をみないということがわかっているので、昼間のうちに診療の完成度
をあげようという、主治医の先生たちの考えがあったんだと思います。

それから患者満足度、向上しました。
これまで常勤医や主治医がオンコールしたとき緊急対応に対してだいたい患者さんの満足度は6割7割ぐらいだったんですが、当直医の満足度はだいたい8割ぐらいですね。

主治医の先生よりも当直の先生のほうが評判がいいんですね。
やっぱり緊急対応となるとそれなりのスキルを必要としますから、それはトレーニングされた当直医のほうが上手にケアできますし、我々のチームは、電子カルテで診療方針を共有してますから、夜間帯違う先生がいたとしても、昼間の診療方針をそのまま継続できる、患者さんは安心感をもって受けてくださってます。

そして、大事なのは連携してる先生方の満足度ですね。

100%。

基本的には患者数が増えて診療収入が大幅に増えました。
月間30人の管理患者数が増えるってことはですね、診療報酬だとどれくらいだとおもいますか。
180万円ぐらいです。けっこう大きいですね。

患者は増えてるのに、ドクターのライフワークバランスは確率しました。夜と週末はゆっくり休めます。
医師の新規採用も容易になりました。
オンコールを持ってください、って言われたら、やっぱり行きたくないですけれども、
オンコールを持たなくていい、って言われたら、それは行きたいですよね。
それから大手の老人ホームの運営者などから、ここの先生は夜必ずなにかあったら対応してくれるという評判がよくてですね、たくさんの施設診療のご依頼を受けているクリニックもあります。

ちなみにこの情報共有のコストはどれくらいだと思いますか。
患者さんひとりあたり、1晩50円です。高いですか?1か月にすると1500円ですね。
在宅患者さんの月間の診療報酬というは居宅の患者さんの場合、1か月だいたい1番安くて5万8千円くらいですから、実は全体のコストの2.6%ですね。

在宅医療やりたくない理由の80%が24時間対応なのだったら、この2.6%のコストは、どうでしょうか?
これで地域の看取り力が強化されて、最後まで家で暮らしたいという方が一人でも多く家で過ごせるようになるとしたら、これは“プライスレス”、ということになるかなと思います。

私たちの次の取り組みとしてはですね、今、一般社団法人の設立を準備しています。
現在は有償会という医療法人が受け皿になって24時間対応、地域のクリニックをお手伝いしていますけど、実は地域には私たち以外にも当直機能を持った在宅のクリニック、大手の在宅のクリニックがあります。

私たちが診療所を持ってない地域にも夜カバーをしてほしいと思っている開業医の先生たちがいます。
当直機能を提供できるクリニックと、当直機能を提供してほしいクリニックを、
マッチングするような大きなプラットフォームを提供したい、という風に考えています。

また在宅のクリニックは、在宅医療というのは実は病院と違って非常に小さな事業体が多い
んですね。だからいろんな意味で、非効率です。高い物品を買うでも、ひとつだけほしいのに
10個入りを買わないといけない、ということはたくさんあるんですね。

私たちは、その小規模な事業体をひとつにまとめることで運営や経営の効率を支援できればと思っています。
また今、在宅医療開示の取り組みもしていますけども、多職種の連携もですね、大きなネットワークの中で入れていきたいと思っています。

これらの取り組みを通じて、持続可能な地域のインフラとしての在宅医療を、医師個人の犠牲によらない24時間対応というしくみを作り上げていきたい、と思っています。

多死時代と言われますし、私たちテレビをつければ平穏死だとか、自然死だとか、安楽死だとか、死ぬ話ばかりですけども、私たち自身が死に方を選ぶということはできないですね。
死ぬまでの時間をいかに生きるか、ということがやはり重要で、在宅で最後の時間を過ごしたいということを支えるということは、私たちにとって非常に重要な使命だと思っていますし、それができるような形を地域のなかでも模索していきます。

どうもご清聴ありがとうございました。

テキスト化「まなみ」さん

ひとこと「自分の死に方を考えることができるのは、医療従事者のみなさんの取り組みのおかげだなと感じるプレゼンでした。」

 

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