宮澤靖:チーム医療に「魂」込めて

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チーム医療に「魂」込めて

近年、医療の高度化と高齢社会の到来で、毎日多数の患者が入院する急性期病院の業務量は膨大となってきた。診療報酬も出来高払いからDPCによる一日包括払いに変わり、病院の業態も物品販売業から労働集約型医療サービス業に大きく変化している。

宮澤靖

近森病院

チーム医療に「魂」込めて

ただいまご紹介いただきました、高知県高知市にございます社会医療法人近森会という施設で、日々栄養サポートをやっております責任者の宮澤と申します。昨年のこの大会では、うちの近森院長がこの場で皆さんにプレゼンをさせていただきまして、2年連続でお話をさせていただく機会を与えていただきましたこと、本当にありがとうございます。

 

昨年うちの院長も申し上げていたとおり、チーム医療というのはいったい何なのだろうということなのですが、どうやらチーム医療というものは、近年非常に概念が変わってきたのではないか、というように思うわけです。

 

同じ曜日、同じ時間、同じ場所にみんなが集まってカンファレンスをすること。おそらくこれが多くの病院で言われているチーム医療というものだったと思うのですけれども、結局中身を見ていると、ドクターだけがずっと話しをしていて、コメディカルはずっと黙っている。そして多くの病院では、ドクターとナースだけでカンファレンスはしない。どうしてかというと、ドクターとナースは日常的に病棟にいて、刷り合わせをしているので、わざわざカンファレンスをする必要がないのではないか、ということを思いついたわけです。

 

1993年、もうずいぶん昔ですが、チーム医療、特に、今秋山先生にご紹介いただいたとおり、「栄養サポートチーム(NST)」、栄養をみんなで考えましょうというチーム医療、これを日本に持ってきたくて、学びたくて、アメリカに単身で行ってまいりました。私が行きましたのがエモリー大学病院という、近年話題になりましたエボラ出血熱の第一症例を治療した病院でございますが、世界で最高峰の栄養サポートチームを持っている病院の1つ。アメリカではベストホスピタルに毎年ランクインするような、アメリカでも最高峰の病院、ここに2年半、私は仲間に入れていただいたということでございます。

 

今、秋山先生からお話しいただいたように、私ども近森病院では、2003年7月からNSTを展開してきまして、ことあるごとにいろいろな壁にぶち当たってまいりました。その壁にぶち当たるたびに、近森院長と二人三脚で、そしてみんなの知恵と力を振り絞って、この壁をどう乗り越えていったらいいのだろうかということで、今の体制づくりがなされてまいりました。

 

1つ1つお話しておりますと時間がなくなりますので割愛させていただきますが、私たちが常にそこで意識してきたことは何かといいますと、「トライ&エラー」ということです。やってみて、ダメだったらどうしようか。そこを乗り越えて今の体制をつくってきたということであります。

 

私たち、病院に勤務いたします管理栄養士が、今一番困っていることは何なのかというと、どこの病院に行っても管理栄養士の数が少ないんです。栄養指導件数もなかなか伸びないんです。他の職種の方に比べると、非常に私たちの診療報酬の単価は安いんです。だから人が増えない。どうしたらよいのか。毎日これについて悩んでいる。そして悩んで悩んで悩んで時間が経つにつれ、どんどんいろんな職種の方々に、栄養という領域から栄養士の仕事がなくなってきてしまっている。そういう状況に、今陥っているということでございます。

 

この近森会も同じような悩みがございました。管理栄養士が少ない。栄養指導件数を増やしたい。どうしたらよいのか。私がこの12年間、近森病院で、近森院長とやってきたことはたった1つです。それは、治療成績をあげること。管理栄養士が入ることによって患者さんがよくなる。幸せになる。そして、医療従事者全員がハッピーになっていく。私はそれがチーム医療ではないかなと思っています。

 

ノルマを決めて、「栄養指導件数月間何件!」これが一番やってはいけないこと。でも多くの病院ではそれをやっている。だから人が増えないということです。1件1件の症例を大切にして、治療成績を上げていくことが、長期的には非常に大きな成果をあげてくるのではないかなというふうに思います。

 

そのためには、マネジメントが非常に必要になります。私はこの10年間、病院の栄養士さんに対して、年間約80回の講演をさせていたいだております。そこで、私がいつもお伝えしていること。栄養部門の責任者の方には2つ。「選択」と「集中」。この2つのキーワードをぜひ実行してください。とお伝えしております。

 

「選択」と「集中」というのはどういうことかといいますと、数多くある業務の中で、どの業務を選択するか。これが「選択」。自分たちでないとできない仕事でなければしないという、大規模な選択の業務があります。そして残った業務に対して、どれだけ集中して時間と人と能力と技術とコストを注ぎ込めるか。これが「選択」と「集中」。これをぜひ。責任者である所属長の方々にやってくださいとお願いをしてきました。

 

そして、一般職の方、管理職以外の方々にもやっていただくことが2つあります。それは何かといいますと、「自立」と「自動」です。「自立」と「自動」、これはどういうことかというと、医療専門職の専門性を上げるには、今お話ししたように、コア業務に絞り込んでいかないといけないわけです。雑用が多いのでは、専門職として絞り込めません。ですから、それは今の部門長がやってくれます。では一般職の方はどうするかというと、それぞれの一般職の視点で患者を診て、判断して、そして患者さんに介入していくこと。これが「自立」と「自動」ということです。

 

医療法上では、お医者さんから指示を受けないと私たちは何もできないと思い込んでいる。だから指示が来るまで何も動かない。そうではなくて、自分の目で診て、自分で介入していく。みんなで頭をつかっていく。これが私たちに求められているのではないかなというふうに思います。そして今お話した4つのポイント。「選択」と「集中」、「自立」と「自動」。この4つのポイントがそろったときに始めてチーム医療としてのアウトカムがでてくるというふうに私は思っております。

 

私の近森病院でのお世話になってきた期間で、3つのキーワードがあります。4と12と34。これはいったい何かと言いますと、最初、近森会にはたった4名の管理栄養士しかいなかったのです。なぜ4名か。近森会という医療法人には4つの病院があるからです。つまり1病院に1名しかいなかったのです。それが12年経過して、現在34名の管理栄養士が在籍するようになりました。私がやってきたこと、そして部下たちに指示をしていたことは、先ほどの4つのキーワード。これをやってきたわけです。

 

この写真の方、どなたか皆さんご存知でしょうか。私が尊敬をいたします、アメリカの黒人奴隷解放の父である、マーチン・ルーサー・キング牧師です。彼は64年の8月に、ワシントンで25万人もの聴衆を集めて、黒人奴隷解放の運動を起こしました。46分間という短い演説でしたが、その間に何度も、この「I have a dream」という言葉を使いました。

 

実は後世になってわかったことなのですが、このキング牧師の演説の原稿には、「I have a dream」という言葉は1行も書かれていなかった。即興で「私には夢がある」ということを25万人に対して、そして全米に訴え、そのことがきっかけでアメリカが動き始めたということです。

 

私が栄養士をやっていたアメリカの町、そしてキング牧師が生まれ育ち、牧師をやっていた町は同じ町でした。ですので、勝手に私は好きだと言っているわけですが、それでは私の夢は何か。

 

1つ目は才能のある管理栄養士を育てていきたい、ということ。若い才能のある、才能って何かと言いますと、私は「継続できる情熱」、これだと思っています。

 

もう1つの夢。(大人になったらなりたい職業ランキングを見せながら)よく、こういうアンケートがあると思います。これは2011年、13年になるとこう。毎年ランキングは変わってきますが、毎年必ず、お医者さんと看護師はランキングされていますが、10年以内にここに管理栄養士を入れることです。小さい子どもたちに夢を売る仕事をしてきたいと思っています。

 

今日、この会場にいらっしゃる皆様、一緒にやりませんか? そういう仕事を。3、4歳の小さい子どもたちが「大きくなったら管理栄養士さんになりたいんだ!」って。想像してみてください。私はこれを夢として持ち続けていきたいと思っています。

 

よく管理栄養士から、「改革をするとき何をしたらよいのか」とよく聞かれます。「何をしたらよいのか」ではなく、「何をして欲しいか」を考えて整備してくださいと私はいつもお伝えをしています。つまり、管理栄養士としての基本を見直すということです。

天に唾するという言葉があります。天に向かって唾を吐くと、自分の顔に戻ってくるのです。つまり、皆さんが日常的にやっている栄養サポートが、私たちが何十年か先、自分自身が患者さんになったときに受ける栄養サポートだということです。

 

若い栄養士によくこう聞かれます。「管理栄養士にとって一番大事なことは何ですか」。

知識ですか? 技術ですか? それとも思いやりですか? と聞かれます。でも、そんなものは皆さん持っていて当たり前ですよね。医療従事者ですから。

私はいつもこう答えています。

「患者に見捨てられないこと」

 

患者に見捨てられないためにはどうしたらよいでしょうか。

「患者さんに説明できないことを決してしない」ことです。これが私たちにとって一番大事なことではないかと思っています。

 

この春、そういった将来を見据えて、私は一般社団法人日本栄養経営実践協会という団体を立ち上げさせていただきました。そこで代表理事を務めております。これから本格的に稼動していきます。副代表理事はそこにいらっしゃる秋山和宏先生です。この会をもとに、生き残りをかけた栄養士の活動をしていきたいと考えています。

 

環境は与えられるものではなく、創るものなんだ、わたしは常日頃そのように考えています。そして、私たちがいつも、心の中で思っていること。私たちの誓いという言葉があります。

必要な患者すべてに

必要な時に

適切な栄養サポートを実践すること

これが私たちと近森に入院している患者さんとの、約束の言葉です。

ご清聴ありがとうございました。

 

< テキスト化:原 彰人 Hara Akito 日本栄養経営実践協会 事務局 >

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